幼い頃に憧れた物語や小説に登場する作品を色とりどりに彩る食べ物の数々を再現。

夜は短し歩けよ乙女

風邪ひきの夜に『夜は短し歩けよ乙女』の卵酒を…。カップ酒でつくるまろやかな卵酒。

森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』の”卵酒”

森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』という小説があります。

非常に癖が強く魅力的な登場人物たちが、京都の街で奇想天外でコミカルかつロマンチックな恋愛劇を繰り広げる(主に主人公である「先輩」が)物語ですが、この作品には「先輩」が恋する無敵の可愛さと行動力を持つ「黒髪の乙女」というなんとも可憐で不思議で、それでいて頼もしいヒロインが登場します。

created by Rinker
¥858 (2026/08/19 17:42:17時点 楽天市場調べ-詳細)

この「黒髪の乙女」は実は底なしの”うわばみ”で、女性ながらにラム酒をなにより愛し、

“太平洋の海水がラムであればよいのに”

森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』 より

と願うほどの大の酒豪です。

そんなわけで、作中ではお酒を飲む場も描かれますが、「黒髪の乙女」は界隈の裏の顔とも言えるこれまた大酒飲みの金貸し「李白翁」と「偽電気ブラン」の飲み比べを繰り広げます。

この「偽電気ブラン」は実在はしないお酒で、作中でも正体の掴めない非常に魅力的なお酒(美味しいことだけは間違いない)なのですが、この作品の中でもう一つ「卵酒」という魅力的なお酒が登場します。

“お酒がありましたので、私は砂糖と玉子をくわえて玉子酒を作ることにしました”

森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』 より

先述の飲み比べの後、「李白翁」は京都中を巻き込む「李白風邪」というものを患います。そんな状況の中、病に倒れる知人たちを見舞いに訪ね「卵酒」を振る舞うのでした。

特に「卵酒」について詳しく掘り下げられているというわけではないのですが、物語の雰囲気や作中での登場人物たちの反応が「卵酒」というものをとても不思議に魅力的なものにしており、どうしても飲んでみたいという気持ちにさせるものでした。

『夜は短し歩けよ乙女』の”卵酒”を作る

さて、この卵酒ですが、昔ながらの温かい飲み物です。日本酒による血行促進による体を温める効果と、卵が含む良質のたんぱく質やビタミンD、リゾチームなどの栄養素による免疫力の向上により、風邪のひき始めの栄養補給源として重宝されています。

ちなみに、卵酒にはアルコールがしっかり入っていますので、風邪がすでに本格化している場合には控えた方が良いでしょう。

卵酒は日本酒、卵、お砂糖のみで作ることができます。

では、作っていきましょう。

実は卵酒を作るのにはカップ酒が意外と良いです。サイズ感もおひとり様サイズでちょうど良いですし、カップ酒のカップ(ガラス瓶)はそのまま温めることができるので、卵酒の調理にも都合が良いのです。

最近は、いろいろな酒造がカップ酒を出していて、純米酒から純米大吟醸酒まで、そしてラベルも昔ながらの無骨なものから、おしゃれで可愛らしいものまで様々手に入ります。

卵酒に使う日本酒はお好みですが、個人的にはお米の旨味の強い純米酒が良いかなと思っています。純米酒は温めると旨味が増すので、その点も卵酒と相性が良いですね。

今回使用したのは北海道旭川の「男山」の生酛純米酒。

伝統的な製法で作られた辛口のお酒で、しっかりとお米の旨みが楽しめるお酒です。

それでは、卵酒の作り方ですが、まずは器に卵を割り入れ、大さじ1ほど溶かします。お砂糖の分量は使用するお酒の味にもよりますが、卵酒は調理中に味見可能ですので、好みに合わせて調整できます。

続いて、カップ酒の蓋を開け、中身のお酒を鍋に注ぎましょう。

澄んだ日本酒がとても綺麗でした。

お鍋で沸騰直前まで温めたら、火からおろし、撹拌しつつ、少しずつ日本酒を卵液に注ぎます。熱々のお酒を一気に加えてしまうと、卵がダマになって凝固してしまう可能性があるので、ここでは辛抱強さが肝要です。

この段階ですでに、卵酒完成…と、器を口に運びたいところですが、グッと我慢します。

元来酒好きとは、美味しいもののためには手間暇を厭わぬもの。美味しい卵酒に仕上げるために、もう一手間かけましょう。

実際、十分に魅力的な見た目ではありますが、少しボロボロと目に見えて”粗い”ことがわかりますし、どうも卵に火が通り切っていないであろうことも想像に難くありません。

では、ここからがカップ酒のカップの卵酒作りにおける真骨頂になります。

一度、卵酒をすべてカップに戻します。

卵と砂糖の分多少容積は増加していますが、同時に温めの間に水分も少し蒸発しているので、意外とピッタリとおさまります。ちょうどピッタリ移し切れると気持ちがいいです。

そして、これをそのまま、お湯を張った鍋の中へ投入してしまいましょう。

これができるのがカップ酒の強みです。

あとは、とろみが出るまでしっかりと撹拌しながら湯煎にかけるだけ。

思っているよりも卵はゆっくりと固まりますので、火加減に関してはそれほど怯えずとも大丈夫です。むしろ弱火で調理していると、いつまで経ってもかたまらず痺れを切らしてしまうかもしれません。

ただ、かき混ぜはあまりサボらない方が良いです。こまめに撹拌していれば、ダマになることは避けられるはず…。

さて、ぐるぐるとお箸で撹拌を続けていると、徐々にお酒がもったりとして、気持ち箸が重くなってきました。

いよいよ、卵酒の完成です。

それでは、とろみの方はどうかというと…

どうでしょう、なんとなく見てわかるでしょうか?

かなりとろんとして、舌触りもまろやかです。

卵のまろやかさに、お酒のコクと、さらにアルコールで体もポカポカして、体にとても良さそうに感じます。

……

ただ、やはり日本酒好きとしては、日本酒はそのまま日本酒として呑むのが一番。たまには卵酒も悪くありませんが、健康な時であれば普通に呑みたいかなぁ…と。

とはいえ、「卵酒」という響の良さと、風情が楽しめること、そして”風邪の時には…”という安心感は十分な価値です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です